BEN Drownedは、海外クリーピーパスタを代表するゲーム怪談です。

題材になっているのは、『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』です。主人公が仮面を使い、同じ三日間を繰り返しながら、月の落下を止めようとする作品です。もともと不気味な空気を持つゲームですが、BEN Drownedでは、そこに「呪われた中古カートリッジ」「消せないセーブデータ」「異常な挙動」「改造されたような映像」「ネットに侵入してくる存在」という要素が重ねられました。

物語の中心にあるのは、古いゲームソフトです。

誰かが持っていた中古のカートリッジを手に入れる。そこには「BEN」という名前のセーブデータが残っている。プレイしていると、ゲームの挙動がおかしい。キャラクターが不自然に動く。音楽がずれる。画面が壊れる。リンクの像がこちらを見ているように感じる。やがて、それは単なるバグではなく、何かがゲームの中にいるのではないか、という恐怖へ変わっていきます。

ただし、最初に分けておく必要があります。

『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』は公式に存在するゲーム作品です。一方で、BEN Drownedは公式設定ではなく、ネット上で作られたクリーピーパスタ/ARG的な物語です。この二つを混同せずに見ることで、なぜこの怪談がここまで広がったのかが見えてきます。

公式作品の不気味さが土台にある

BEN Drownedが強かった理由の一つは、題材に選ばれた『ムジュラの仮面』自体が、もともと不穏な空気を持つ作品だったことです。

明るい冒険だけではありません。三日後に月が落ちるという終末感、仮面をかぶって姿を変える不気味さ、時間を戻しても人々の不安が繰り返される構造、どこか悲しい世界観。そこには、子ども向けゲームの中にある奇妙な怖さがあります。

BEN Drownedは、この公式作品の空気を利用しています。

もし題材がただ明るいだけのゲームなら、呪いのカートリッジという設定はここまで噛み合わなかったかもしれません。『ムジュラの仮面』には、もともと「何か裏がありそう」「説明しきれない闇がありそう」と感じさせる余白があります。

都市伝説は、作品の余白に入り込みます。

BEN Drownedは、公式が語っていない隙間に、呪いのソフトという物語を差し込んだのです。

中古カートリッジという入口

ゲーム怪談でよく使われるのが、中古ソフトです。

中古ソフトには、前の持ち主の痕跡があります。ラベルの汚れ、傷、箱の欠け、古い説明書、そしてセーブデータ。新品とは違い、そこには誰かが遊んだ時間が残っています。

BEN Drownedでは、この感覚が非常にうまく使われています。

「BEN」という名前のセーブデータが残っている。前の持ち主が誰なのかわからない。なぜ手放されたのかわからない。普通なら、古いデータが残っているだけです。しかし、怪談の中では、それが死者の痕跡のように見えます。

セーブデータは、ゲームの中の記憶です。

プレイヤー名、進行状況、持ち物、場所、イベントの進み方。そこには、前の誰かの遊び方が保存されています。だからこそ、「知らない人のデータを開く」という行為には、少しだけ他人の部屋をのぞくような感覚があります。

BEN Drownedは、この感覚を呪いの物語へ変えました。

セーブデータが人格を持つ怖さ

BEN Drownedの怖さは、セーブデータがただの記録ではなく、人格のように見えてくるところにあります。

ゲームのセーブデータは、本来ならプレイヤーの進行を保存するだけです。しかし怪談の中では、そこに名前があり、過去があり、意思があるように見えます。BENという名前は、単なるファイル名ではなく、ゲームの中に残った存在の名前として読まれるようになります。

これは、ゲームならではの恐怖です。

本や映画では、登場人物は画面の向こうにいます。しかしゲームでは、プレイヤーが操作します。名前を入力し、セーブし、ロードし、行動を選びます。そのため、データに異常が起きると、自分の操作している世界そのものがこちらへ反応しているように感じます。

セーブデータが勝手に変わる。消したはずの名前が戻る。前の持ち主の痕跡が残る。こうした演出は、「ゲームが自分を見ている」という感覚につながります。

BEN Drownedは、データに魂が宿るという現代的な怪談なのです。

バグ画面と改造映像のリアリティ

BEN Drownedを有名にした要素の一つが、映像です。

文章だけで「ゲームがおかしい」と書かれているのではありません。実際に異常なゲーム画面のような映像が示されます。キャラクターの動き、カメラの挙動、音楽の乱れ、通常では起こらない場面、リンクの像の不気味さ。これらが、視聴者に「本当にこんな画面が出たのか」と思わせます。

ここで重要なのは、ゲーム改造の存在です。

ゲームを改造すれば、通常では見られない映像を作ることができます。キャラクターの配置を変える。音楽をずらす。イベントをおかしくする。通常行けない場所へ行く。画面を壊れたように見せる。

見る側も、それが改造かもしれないとはわかっています。

それでも怖いのは、ゲームのバグ画面には本物らしさがあるからです。低解像度のポリゴン、粗いテクスチャ、不自然な動き、突然止まる音。昔のゲームでは、少し画面が乱れるだけで、作品世界の裏側を見てしまったような感覚があります。

BEN Drownedは、改造映像を「呪いの証拠」のように見せることに成功した怪談でした。

低解像度表現が怖さを増す

NINTENDO 64時代の3Dゲームには、現在のゲームとは違う不気味さがあります。

粗いポリゴン、暗い空間、遠くでぼやける背景、無表情なキャラクター、少ない音数、突然切り替わる画面。こうした表現は、当時は技術的な制限でした。しかし、後から見ると独特の怖さを持ちます。

BEN Drownedは、その怖さをうまく使っています。

リンクの像、空っぽの町、通常のゲーム進行から外れた画面、誰もいない空間。高精細な映像なら説明されすぎてしまう場面も、低解像度だからこそ想像の余白が残ります。

ゲーム怪談では、見えすぎないことが大切です。

粗い画面の中に何かがいるように見える。バグなのか演出なのかわからない。キャラクターの表情が読めない。音が単調に鳴り続ける。こうした曖昧さが、呪いのソフトという想像力を支えます。

BEN Drownedは、古いゲームの技術的制限を、怪談の雰囲気に変えた作品です。

攻略本と裏技の時代感

ゲーム都市伝説には、「攻略本に載っていない何か」がよく登場します。

昔のゲームでは、攻略本や雑誌、友達の口コミが重要な情報源でした。すべての仕様が公式に説明されているわけではなく、裏技や隠し要素、バグ技が噂として広がることもありました。

BEN Drownedは2010年代のネット怪談ですが、その根には古いゲーム文化への記憶があります。

中古ソフト、カートリッジ、セーブデータ、バグ技、改造、裏技。これらは、プレイヤーに「まだ見つかっていない何かがあるかもしれない」と感じさせる要素です。攻略本に載っていない秘密、開発者が残した未使用データ、偶然出るバグ画面。そうした期待と不安が、呪いのゲームソフト型の怪談を支えます。

BEN Drownedは、単にゼルダを題材にした怖い話ではありません。

ゲームを遊んできた人なら知っている、「本来のルートから外れたら何かが起こるかもしれない」という感覚を使っているのです。

子どもの口コミからネット考察へ

ゲームの噂は、かつて子どもの口コミで広がりました。

学校の休み時間、友達の家、攻略本の貸し借り、兄弟から聞いた話。「この操作をすると隠しキャラが出る」「この場所でセーブするとバグる」「中古ソフトに変なデータが入っていた」。こうした話は、ゲームの外で育ちました。

BEN Drownedでは、その口コミ文化がネットへ移っています。

掲示板の書き込み、ブログ形式の記録、YouTube動画、コメント欄、ファンWiki、考察スレッド。子ども同士の噂が、ネット上の共同検証へ変わったのです。

視聴者は、ただ読むだけではありません。

映像の違和感を探す。セリフを解読する。隠されたメッセージを探す。URLをたどる。投稿者の発言を追う。過去の動画と照合する。こうして、怪談は一人の物語から、参加型の謎解きへ変わります。

BEN Drownedは、ゲーム実況と怪談の相性の良さを示した作品でもありました。

動画考察が物語を増幅する

BEN Drownedは、動画考察によって大きく広がりました。

ゲーム画面の異常は、文章だけで説明するよりも映像で見せるほうが強い。視聴者は、実際に画面が壊れていく様子を見て、ゲームの中で何かが起きているように感じます。

さらに、動画にはコメント欄があります。

「ここで音が変わっている」 「この像が怖い」 「BENが見ている」 「この台詞は伏線ではないか」 「次の動画で何が起こるのか」

こうした反応が、物語を増幅します。投稿者が出した映像に、視聴者が意味を加える。小さな違和感が、コメント欄で大きな手がかりになる。これはARG的な体験です。

BEN Drownedは、視聴者が「発見する」余地を残していました。

完全に説明された怪談ではなく、隠された意味があるように見える。だから、考察動画や解説記事が作られ、さらに広がっていったのです。

呪いのゲームソフト型とは何か

BEN Drownedは、呪いのゲームソフト型の代表例です。

この型では、ゲームソフトそのものが普通ではありません。中古で手に入れたソフト、前の持ち主のデータ、消えないセーブファイル、通常とは違う画面、プレイヤーに話しかけるような挙動。ゲームが、単なるメディアではなく、何かの依り代になります。

呪いのソフト型の怖さは、物とデータの両方にあります。

カートリッジという物理的な不気味さ。誰かが触っていた中古品。そこに残るデータ。さらに、画面の中で起きる異常。物理とデジタルの境目に、怪談が生まれます。

これは、赤い部屋のようなポップアップ怪談とも違います。

赤い部屋はブラウザの画面に突然現れる怪異です。BEN Drownedでは、ゲームソフトという物を通じて怪異が入り込みます。画面の奥にあるだけでなく、手元のカートリッジにも不気味さが宿るのです。

クリーピーパスタとしての完成度

BEN Drownedは、クリーピーパスタとして非常に完成度の高い作品です。

文章、映像、投稿者の記録、ゲーム画面、読者の反応、謎解き要素。これらが組み合わされ、単なる短編怪談ではなく、体験型の物語になっています。

クリーピーパスタの特徴は、 され、共有され、改変され、考察されることです。

BEN Drownedも、動画、まとめ、翻訳、ファンアート、解説、実況、派生作品によって広がりました。作者の手を離れ、ネット上の共有物になっていくことで、都市伝説のような存在感を持つようになりました。

ただ怖いだけではありません。

視聴者が参加したくなる。調べたくなる。続きが気になる。過去の動画を見返したくなる。こうした仕掛けが、BEN Drownedを長く語られる怪談にしました。

バグ型・考察型・呪いのソフト型

ゲーム都市伝説には、いくつかの型があります。

バグ型は、ゲームの仕様や不具合が怖さになるものです。画面が壊れる、文字化けする、音が乱れる、通常では出ないキャラクターが現れる。機械が正常に動かないことへの不安が中心です。

考察型は、作品の余白を読み解くものです。未使用データ、意味深な台詞、背景の小物、開発中の名残。そこから「本当はこういう設定があったのでは」と考えます。

呪いのソフト型は、ゲームそのものが危険な物になるものです。BEN Drownedはこの型に近い作品です。中古カートリッジ、前の持ち主、消せないデータ、異常な映像、ネットへの侵入。バグや考察の要素もありますが、中心にあるのは「このソフトには何かが宿っている」という発想です。

この三つが混ざることで、BEN Drownedは強くなりました。

ただのバグなら、技術的な説明で終わります。ただの考察なら、作品分析で終わります。しかし、そこに呪いのソフトという物語が加わると、ゲームの異常は怪異になります。

公式事実と噂を分ける

BEN Drownedを語るうえで大切なのは、公式作品と二次創作の境界を分けることです。

『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』は公式のゲーム作品です。三日間のループ、仮面、月の落下、不気味な世界観、印象的なキャラクターたちは、作品そのものに存在します。

一方、BEN Drownedは公式設定ではありません。

それは、ファン制作のクリーピーパスタであり、ARG的に展開されたネット怪談です。ゼルダという公式作品の余白や雰囲気を利用していますが、公式の物語ではありません。

この違いを分けることは、作品への敬意としても重要です。

公式作品の魅力があったからこそ、BEN Drownedは成立しました。そして、ファンがその魅力を別の方向へ読み替えたからこそ、都市伝説になりました。両者を混同せずに見ることで、ネット怪談としての面白さがよりはっきりします。

BEN Drownedとは何か

BEN Drownedとは、ゲーム改造、映像演出、中古カートリッジの不気味さ、セーブデータの個別性、ネット参加型の謎解きが結びついた、現代のゲーム怪談です。

それは、公式ゼルダの物語ではありません。しかし、『ムジュラの仮面』が持つ不穏な空気、時間ループ、仮面、終末感、古いゲーム特有の低解像度表現を土台にしています。その上に、「BEN」という名前のセーブデータと、呪われたカートリッジの物語が重ねられました。

BEN Drownedが広がったのは、プレイヤーがゲームに対して抱く感覚をよく捉えていたからです。

中古ソフトには前の持ち主がいる。セーブデータには誰かの記憶が残る。バグ画面はゲームの裏側を見せる。改造映像は、あり得ないことを本当に起きたように見せる。動画とコメント欄は、視聴者を怪談の参加者に変える。

つまり、BEN Drownedは「ゲームの中にまだ何かが隠れているかもしれない」という想像力を、呪いの物語へ変えた作品なのです。

呪いのゲームソフト型の怪談は、プレイヤーの手元にある物を不気味にします。クリーピーパスタは、それをネット上で共有し、考察し、拡張します。BEN Drownedは、この二つが重なった代表例でした。

ゲーム画面がおかしい。ただのバグかもしれない。改造かもしれない。演出かもしれない。それでも、もし本当に誰かが中にいるのだとしたら。

その一瞬の疑いが、BEN Drownedというネット怪談を今も生かしているのです。

確認に使った主な資料です。BEN Drownedは、Alexander Hall が Jadusable 名義で制作した『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』題材のクリーピーパスタ/ARGとして説明されています。 ウィキペディア

Creepypasta Wiki でも、BEN Drownedは Alex Hall / Jadusable による有名なクリーピーパスタで、呪われた『Majora's Mask』カートリッジをめぐる物語として整理されています。 Creepypasta Wiki

Wiredは2010年時点で、Haunted Majora's Mask Cartridge を、ガレージセールで手に入れた中古NINTENDO 64ソフト、奇妙なゲーム映像、プレイヤー参加型の謎解きが結びついたARGとして報じています。 WIRED

『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』は、2000年にNINTENDO 64向けに発売された公式作品であり、BEN Drowned本文中の怪談部分とは分けて扱う必要があります。 ウィキペディア